アレルギー性疾患と考えられる足関節痛の治療

私は数年前よりアレルギー性疾患に興味を持つようになりました。その理由は①アレルギー性疾患とその原因たるアレルゲンは、伝統的な東洋医学の病因の中には存在しないこと、②アレルゲンの一つである化学物質に及んでは、20数年程前より認識され出したものであること、③アレルギー性疾患は臨床の中で頻繁に出会うこと、④一般人や医家においても、あまり認識されていないこと、⑤今後アレルギー性疾患は増え続けると考えられること、などです。

アレルギー性疾患を臨床上からみると、現代医学の検査基準ではアレルギーではないと判定されても、アレルギー性疾患であると考えられるケースも多いです。私は、一見、アレルギー性疾患とは思えない病でも、四診を通してアレルギーと診断し、治療を行っています。

今回は、医師に腱鞘炎と診断され、治療を受けるも改善せず、柔道整復治療を受けるも症状が不変であった患者が、当院へ来院し、アレルギー性疾患として診断治療し、効果が見られた症例です。

アレルギー性疾患としての明確な現代医学的検査結果は無く、私の独断であると指摘されることもあるかと思いますが、診察・診断・治療法の一つの提示をさせていただきたく発表しました。

『症例』

【患者】

女性 69歳 身長160cm 体重56㎏ 

初診 2007年11月16日

【主訴】

左足関節の痛み

【既往歴】

20歳: 虫垂炎 

右卵巣摘出 虫垂炎の手術の際に傷つけた可能性あり

60歳: アトピー性皮膚炎 一年中顔面部に発症している(一時期はステロイドを使用し、その間は軽減していた)

66歳: 高血圧症 150mmhgだったが降圧剤(ラシックス)服用で正常値範囲にある

【職業】

ホテルのレストランでの調理(AM5:00~AM10:00)

【問診】

本年(2007年)10月中旬から、左足関節に痛み出現。発症前に足をひねったり、足を使いすぎた記憶はない。

整形外科を受診し、腱鞘炎と診断される。リウマチ検査は陰性。

発症当時は局所(解溪穴と太溪穴あたり:経絡図参照)が痛んだ。整形外科では痛み止めの注射による治療を合計4回受ける。しかし、傷む部位が不鮮明になったが、痛みの程度は変わらなかった為、注射による治療を中止され、経口薬に変更した。鎮痛薬(ボルタレン)を服用するも、2~3時間で服用前と同程度の痛みを感じた。(1日3回、1錠ずつ服用)。また、マイクロ波治療器等を受けるが変化しなかった。

その後、柔道整復院を受診、治療を受けるが症状は不変であった。

本院来院時は、自発痛は無く、動かすと左足関節全体に痛みがあり、足陽明経の解溪穴と足少陰経の照海穴から太溪穴・復留穴あたりにかけ強い痛みがあった。圧痛も同部位、同程度にあった。

動作としては、足底全体を床に着けて立てない状態であった。歩行は内反足の状態で跛行する。

飲食:食欲は旺盛 

   冷えた物が多く、飲み物は必ず氷を入れて飲む。また脂っこいものやナッツ類を好む。

コーヒー 2~3杯/日

ビール 1,000ml/日

二便:正常

睡眠:6時間30分(夜10:30~朝5:00)

喫煙:20本/日

【望診】

局所: 左足の浮腫、少しあり

舌診: 舌中に烈紋あり

顔面診:顔全体が赤黒く艶無し、口の周りは一段と濃い

特に口の周り・小鼻に、カサツキと痒みあり

小鼻は短縮し鼻腔まで黒く変色している

目は潤んでいる

【聞診】

鼻にかかったような声で力は無い

【切診】深部切経法※注1を含む

〔腹診〕

虫垂炎の手術痕・卵巣摘出の手術痕部は冷えていて気が通り難い。特に卵巣摘出の手術痕は下腹部正中線上にある。これは恥骨から上に向って8センチほどで、1.5センチ幅のケロイド状になっており、気は不通である。

しかし、手術痕部の深部に顕著な気の不通は感じられなかった。

〔背部診〕

身柱・肺兪・脾兪・胃兪・三焦兪・腎兪に虚の反応があった。

〔切経〕

前腕部の六経は、すべて弛緩して虚の状態であった。

患部(左足関節部)は、全体に軽度の浮腫と軽度の熱感を感じた。

照海・太溪・復留の深部と解溪には著しく熱を感じた。

患部以外は正気の虚が大きく、冷えに傾いていた。

〔脉診〕正邪脉診法 ※注2

寸関尺の全てにおいて正気の虚であり、脉状は非常に硬く、浮いている。

特に右の寸口と関上に於いて、正気の虚は著しい。

【証】

肺脾腎の虚

【施治】

至陰・合谷・隠白

接触鍼※注3による治療を行い、寸関尺の全てで正気が増し調ったことを確認して終了した。

【直後効果】

痛み軽減し歩き易くなる(痛みの自己判定:VAS 10→8)

望診として、顔の赤黒味がひき、艶が出る

【所見】

脉診でみられた著しい正気の虚、前腕部における正気の虚、舌中の裂紋、強度のアトピー性皮膚炎などを考え合わせて、以前から正気の虚の存在が窺われた。

しかし、治療により脉がかなり改善されること、加えて日常生活において正気を傷つける要因が非常に多く、治療と共に養生を行ってもらえれば、かなりの改善が期待できると考えられた。

病因としては、発症に至るまでに、患者の生活には変化はなく、10月に発症したことから、“冷え込み”か“花粉症”が考えられた。

マイクロ波治療器は東洋医学的視点からみれば、かなりの温補効果がある。しかし、マイクロ波治療器でも症状に変化がないことから“冷え込み”は発症のキッカケではないと判断した。

以上の結果、患者はアレルギー体質であり、秋の花粉(ブタクサやスギ※注4など)が発症原因になったものと考えた。

【養生指導】

正気の減少を招くシャンプーや入浴、ビールやコーヒー、冷えた飲食物、消化しにくい食品などの摂取や頻度を少なくし、ぬるま湯を飲むように指導する。また、身体を冷やさないことも指導した。

第2診 2007年11月17日

【問診】

前回治療後、痛みは軽減し、歩き易くなる。(10→7)

体が温かい。

【切経】

患部(左足関節部)の熱は半分以下に減少した。

【脉診】正邪脉診法

前回より若干正気は増えているが、依然として邪気は多く、右関上の虚強し。脉状は浮弦脉。

【施治】

隠白・至陰・竅陰・合谷・外関

接触鍼を使用し、寸関尺の全てに正気が増し調ったことを確認して終了する。

【自覚症状】

治療前よりも軽減している。

第3診 2007年11月19日

【問診】

左足底全面を床に着けて歩くことができる。

【切経】

左足関節部、特に太溪穴と崑崙穴の深部と解溪穴に少し熱あり

左第1-第2肋間に熱感あり(一診、二診では確認していなかったが、胸骨から上胸部は花粉症で熱が現われやすい部位であり、今回の左第1-第2肋間の熱感も同じである)

【脉診】正邪脉診法

前回より少し正気は増えている。しかし、邪気は依然多く、右寸口の虚は顕著である。脉状は浮弦脉。

【施治】

隠白・至陰・合谷・神門・外関

接触鍼を使用し、寸関尺の全てに正気が増し調ったことを確認して終了する。

【自覚症状】

痛みは軽減し、歩き易くなる(10→4)。

顔の赤黒さも軽減し、肌の色が白くなる。

第4診 2007年11月20日

【問診】

左足底全面を着けて歩くことができる

痛みはかなり軽減する(10→2)。

【切経】

左足関節部、太溪穴と崑崙穴の深部と解溪穴に少し熱感あり、しかし前回よりも減少している。

【脉診】正邪脉診法

両寸関尺すべて正気少し増しているが、まだ、虚が強い。脉状は浮弦脉。

【施治】

隠白・至陰・合谷・神門・外関

接触鍼を使用し、寸関尺の全てに正気が増したので終了する。しかし、若干の弦脉が残る。

【自覚症状】

痛みは軽減し、更に歩き易くなる(10→1)

『花粉症・アレルギーについての認識』

考察に入る前に、まず私の臨床経験と文献から、花粉症とアレルギーに関しての認識を述べたいと思います。

①花粉症はアレルギーである。

  ②アレルギー症状は体中の皮膚と粘膜(関節膜・筋膜・内臓・血管など)全てに発症しやすい。体調や体質などにより発症部位が異なる。

  ③花粉症は花粉の曝露のみが原因ではなく、その草木の成分が微量空気中に漂うだけで発症する。

  ④アレルギー性疾患は、当初アレルゲンが一つであっても、進行すると花粉・薬物・金属・ダニ・寒冷など、他の物質にも反応し、アレルゲンの数が増えていく。

  ⑤現代医学的アレルギー判定が陰性でも、アレルギーは発症する。

  ⑥花粉アレルギーの背景には化学物質の存在が大きくあり、花粉の単一原因ではなく複合的原因と考える。

  ⑦花粉に限らずアレルギーの原因は複合と思われる。

  ⑧アレルギー性疾患は正気の虚を招き、正気が虚すれば悪化し、正気を補うと軽減する。

  ⑨花粉症はその原因植物の風上か風下かの違いで症状が変化する。即ち、原因植物の風上に居れば症状は少なく、風下に居れば多くなる。

本文では、花粉症と表現しましたが、ここで述べた花粉症とは、花粉の飛散というより、その植物の非常に小さな成分の飛散があり、その曝露と考えた方が正しいのではないかと考えます。その理由の一つに、雨天時には花粉が雨に流されて花粉の曝露はないといわれていますが、臨床的には天候に関係なく同じ症状を呈することがあるからです。

花粉症は大気中に化学物質と、花粉の両者の存在がある所で発症しやすいデータから考えても、ここ数年日本における“大気汚染の増悪傾向”“臨床においての花粉症患者の増加傾向”“中国の大気汚染の増悪傾向”“静止衛星からの映像による、中国からの大気流入”などから、中国の汚染大気との関わりは否定できないでしょう。ただ、全ての原因が中国の汚染大気ではなく、幾らかは日本国内からも産生されていると考えられます。

このように考えると花粉症と表現するより、大気汚染病と表現するのが正しいのかも知れません。

以前、花粉を外感六淫に加えて七淫にすればよいのではないかと提案したこともがありますが、化学物質がアレルゲンになったり、ホルモン撹乱物質になったり、花粉症の誘因になることなどを考え合わせると、「大気汚染邪」という病邪を新たに作ってもよいのではないかと考えます。

東洋医学は古来より実体として感じられないものを概念化し、理論を作ってきた経緯があります。医学の進歩により新たな邪気の実態を、客観的に認識できたのであれば、それに対する呼称は必要と思います。

『考察』

本症例は通常なら捻挫、若しくは腱鞘炎でありますが、アレルギー性疾患と診立てたことに意味があると思います。

以前、同じ様な症状で医者に捻挫と診断され、1年以上にも渡って捻挫の治療を受け、治らない為に当院へ来院した患者さんの場合は、高血圧の薬の副作用による痛風だったというケースがありました。

今回の患者さんも高血圧の薬を使っていたので、一番に痛風を疑いました。しかし、腫れ加減と熱発が痛風のそれとは違い穏やかだったので、痛風は外しました。リウマチも検査が陰性だったので除外しました。

腱鞘炎と捻挫に関しては、屈筋と伸筋に痛みと腫れが同時に出現しており、私の経験からでは腱鞘炎や捻挫などとは考え難く、除外しました。

症状が10月半ばよりの発症していること、そして患者さんの生活環境の変化がなかったことから、冷えによる経気の気滞や痺病も考えました。しかし患部を含めた切経にて皮毛から筋までを診た結果、冷えが主たる原因というほどの冷えは感じられず、また、冷え込みが主原因であるならばマイクロ波治療器で幾らかの改善がみられるはずが、みられなかった為、除外しました。

それよりもこの時期の花粉(ブタクサやスギなど)からのアレルギー症状と診た方が合理的である為、アレルギー症状(アレルギー反応による足関節部に於ける筋膜などの炎症)と診断しました。

今回の患者さんの治療中に特徴的なことが一つあります。それは、腸のグル音が非常に大きかったことです。グル音は病的に起きる場合の他は、正気が少ないところに補われた時に生じることが多いものです。今回も、グル音が発せられる度に脉が緩み、正気が増えるのを感じていました。患者さんによると、治療のときのみにグル音があるとのことでした。

以上より、普段から患者さんの正気がいかに少ない状態であったかが窺われました。同時に、治療後の脉の変化の大きさや、グル音の激しさなどから、正気は戻り易い状態にあったといえます。そのため早期に快方に向かったものと思います。

ただ、治療後に良くなった脉が、次の来院時にはかなり悪くなっています。これは養生をしてもらっているとはいえ、日々の生活の中で正気を消耗する原因が、大きくあるということです。この原因が花粉だけであれば仕方ないことですが、それ以外にあるなら日常生活を見直す必要があるでしょう。

治療穴に関して補足します。今回の患者さんは正気の虚が非常に大きかったことと、足関節の疾患であるため、治療が長引くことによる、腰や内臓、精神への症状の派生を危惧されました。それを避ける為に早期に改善すべく使用穴を多く用いました。

最後に、患者さんには医家にすべてを任せるタイプと、そうではないタイプの二種類があると考えます。今回の患者さんは後者であり、症状が改善した途端に来院されなくなったことを報告します。その為、その後の経過を報告できない症例となりました。

※注1 深部切経法:切経は本来体表を診るものであるが、深い部分も診る切経法

※注2 正邪脉診法:脉中に正気と邪気とを明確に別けて診、正気を主たる対象とする脉法

※注3 接触鍼  :今回使用の接触鍼は、紙を棒状に巻いて作ったものを使用

※注4 スギ花粉 :この時期でも暖かい場合、スギ花粉が飛ぶ場合がある

『参考文献』
http://www2.health.ne.jp/library/5000/w5000335.html
よくわかる アトピー性皮膚炎 一問一答(合同出版 松延正之 千葉友幸 橋本宏一)
化学物質過敏症 ここまできた診断・治療・予防法(かもがわ出版 石川哲 宮田幹夫)
あなたも健康になれる-大事なことは、間違った常識に気づくこと-(たにぐち書店 柿田秀明)
解剖經穴図(医道の日本社 森秀太郎)