花粉症に対する鍼灸治療一考

 一般的に花粉症は、目の痒みや充血、鼻水や鼻詰まりなど、人体にとって大きな影響を及ぼさない症状が主たるものと思われているようですが、臨床の中での花粉症を考えると、人体への影響はもっと広範囲、且つ深部に及ぶものと思われます。

 今回は、東洋医学的治療の現場から感じられることに、最新の現代医学の応援を得て、花粉症についての一考を報告したいと思います。

『現代医学における花粉症』

「花粉症の現状」

アレルギー性疾患に悩む人は国民の3割、その中で花粉症は10人に1人といわれ国民病の様相を呈しています。

日本ではこれまで約60種類の原因花粉が知られており、花粉の飛散時期は、春夏秋と一年の内の四分の三に渡るのです。

「花粉症の定義と診断と治療」

 現代医学的にいう花粉症は、クシャミ・鼻水・鼻詰り・目の痒み・流涙などが花粉の吸入に応じて起こり、花粉の飛散量の増減と症状の増減が比例することに加えて、RAST検査やスクラッチテスト、皮内テストなどの陽性反応で花粉症の診断を下します。

そして、治療には大きく別けて、症状を軽減する薬物療法と根本的に治す根治療法の二つがあります。

「花粉症における現代医学の問題点」

花粉症においての現代医学的検査結果は、必ずしも症状と一致しないという問題があります。それは「現代医学的検査で陰性なのに自覚症状がある」場合と「現代医学的検査で陽性なのに自覚症状がない」場合です。

前者に関しては、まだ検査項目に挙がっていない花粉が原因となっているか、個人の発症レベルが基準よりも低いということが考えられます。

より問題にしたいのは後者であり、これを解くには、①「現代医学的に花粉症はアレルギーであり、アレルギーは全身症状である」ということと、②「東洋医学的な病的症状の発現と正気の多少」ということが鍵になると思われます。

①に関しては次項の「花粉はアレルギー・・・」で、②に関しては後述の「東洋医学における花粉症」で解決できるのではないかと思います。

「花粉症はアレルギーであり、アレルギーは全身症状である」

アレルギーとはある種の物質を異物と判断して、体内でIgE抗体を作り、IgE抗体の蓄積量が一定量を超えると過敏に反応し、それが異物に対してだけに止まらず、細胞組織・血管・神経細胞にも及んだものをいいます。

症状としては、湿疹・喘息・鼻炎・など、皮膚や粘膜を中心に様々な症状が現われます。また、咳・くしゃみ・かゆみ・発疹・頭痛・身体がだるい・疲れやすい・イライラ・食後の身体のだるさ、など多種にわたり、アレルギーと気が付かないことも多いのです。

 アレルギーの中で激烈な症状を伴うのがアナフィラキシーであります。これは度重なる異物の侵入によりIgE抗体が大量に蓄積された状態の時、更に異物が侵入したり、複数の異物の同時侵入により、ヒスタミンが全身の毛細血管を拡張し血圧低下を起こし、その結果、脳の血流量の減少、心臓機能の低下など起こし、ひどい時には死に至るものです。

アレルギーは原因物質(アレルゲン)の侵入から発症までの速さの違いで、即時型(Ⅰ)・遅発型(Ⅱ・Ⅲ)・遅延型(Ⅳ)に別けられます。またアレルゲンの種類により、吸入アレルゲン・食物アレルゲン・接触アレルゲン・薬物アレルゲン・昆虫アレルゲンなどに別けられます。

以上のように、アレルギーは全身症状であり、花粉症もアレルギーの範疇にあるため、症状は目や鼻の留まることなく他の部位に及んでいても不思議はないのです。そして目や鼻の症状がなく他の症状のみのこともあるのです。また、アナフィラキシーという危険な状態に突入する要素も含んでいるのです。

 

『東洋医学における花粉症』

「東洋医学の中の花粉症」

 東洋医学において花粉症という病名はありません。しかし、古来より一般的な表現で「木の芽立の病」とか、「春と秋には風邪をひきやすい」などと言われ、春と秋には体調が崩れやすいということは認識していたと思われます。

 このような症状を訴える患者さんを東洋医学的に診ると、多くは、鼻水・鼻詰り・目のかゆみ・流涙・悪寒・悪風・発熱・頭項強痛など、身体の浅いところの症状(以後、便宜的に「表症」と表現します)があり、脉は「浮にして右寸口と両尺位に著しい虚」を診るため、一見外感病のようです。

しかし、これらは花粉の飛散時期や飛散量に比例したり、同症状の患者数も比例することから、一般的な外感病ではなく花粉に起因しているのではないかと思われます。こう考えると、現代ほど多くはないにしろ、花粉症を外感病の範疇で捉えていたのではないでしょうか。

「花粉症には特徴的な脉の変化がある」

 この花粉が影響しだす同時期から、前述の如く「全体としては浮き、右の寸口と両尺位に著しい虚」という特徴的な脉の変化がみられます。

 最も罹患率が多くダメージが大きい花粉症である、スギやヒノキの花粉の時期に、継続来院されている患者さんの中から、これらの花粉症の方の脉を調べていくと、脉の変化がお判りになりやすいかと思います。

この脉を診ることが出来るようになると、100%ではないにしろ脉診だけで花粉症の診断がつくようになります。脉で花粉症が診断できるようになると、スギやヒノキ以外の花粉症も同じように診断できるようになります。また、花粉症の原因となる花粉は、なるほど数多くあり、通年近くに渡り花粉症を患っておられる方もあることにも気付かれることでしょう。

ただ、花粉症の脉は、女性の生理中や風邪の脉と似ているので、見分けが付き難いことがあります。また花粉症と生理や風邪が同時にある場合もありますので、このような場合、切経や問診などを参考にされればよいと思います。

「花粉症は表症だけではない」

 花粉症の時期に、――倦怠感・食欲不振・鼻水黄・黄痰・鼻乾・呼気の熱、喘鳴・呼吸困難・胸部内の熱(触診で診る)・喘息様の症状・膀胱炎・口内炎・尿道炎・耳管炎・関節炎・筋炎・下痢・食欲不振――などの症状を訴える患者さんも増える傾向にあります。

花粉の飛散期に、このような訴えを持つ方の脉を注意してみていくと一定の傾向があることに気が付きます。症状は一般的な花粉症と、かなり違いますが、脉診でみる限り「右寸口と両尺位の著しい虚」という花粉症の特徴的な脉を示しているのです。

つまり臨床的にみると、花粉症は表症だけでなく、深いところの症状(以後、便宜的に「裏症」と表現します)も同時に発症している病と言えるのではないでしょうか。

「東洋医学的な症状の発現と正気の多少」

前出の「現代医学的検査で陽性なのに自覚症状がない」という疑問を解く鍵としての意味も含めて述べさせていただきます。

東洋医学では「正気の量の違いで病位が変わる」ことから、正気の減少が小さい時には、表症が出現し、正気の減少が大きい時には、裏症が出現しやすくなります。反対に正気が十分足りていれば症状は出ないのです。また、正気の減少が大きい時には、併病・合病として表症も現われることもあります。

花粉症においては、花粉自体が生体にとって邪であり、花粉に侵入された生体は、これを処理するために正気を用い消耗します。花粉を浴びる期間が長引けば長引くほど正気の減少は大きくなり裏症が出やすく、この状態から治療や養生で正気を増やしてゆくと、多くは正気が増える途中で表症が出現し、そのまま正気を増やし続けることで再び症状は消失します。

以上のように正気と症状との間には、ちょっと複雑な関係があることから、「現代医学的検査で陽性なのに自覚症状がない」を解く鍵になったのではないでしょうか。

『私共の臨床から・・・』

「持病について」

 花粉症は急激にして大量の正気の減少を招くので、持病(他の疾患)を持っておられる患者さんのほとんどは、その疾患の悪化を招いています。花粉症の時期に死亡される方が多いように感じられるのはこのためではないのでしょうか?

「私共の治療」

ここで参考に、私共の花粉症治療を報告させていただきます。脉は前述しましたように、全体としては浮いて、その中で右寸口と両尺位に著しい虚を診ることから、治療もこれに沿って行います。

施治は五行の相生関係を参考に、まず水である至陰穴を補い、次に金である少商穴を補います。多くの場合、これだけで花粉症による諸症状は緩解します。軽い方の場合、至陰穴のみで十分です。

しかし、花粉が飛んでいる間は再発を繰り返し対症療法になってしまいますが、これは仕方がありません。時間的に余裕があり、長い目で花粉症の緩解を考えるのでしたら、花粉が飛んでいない時期に、一気に正気を増やすことが最良の治療と思います。ただ、昨今は残暑や暖冬など気候不順のため、花粉の飛散期間が一ヶ年近くにまで渡りそうなので心配です・・・。

現在、私共の治療は、正気を傷つけることなく補えて、痛みなどを考慮してツボを選ぶ必要性がなく、感染の危険もほとんどないという意味で接触鍼(パワースティック)を用いています。

また、上記の配穴では単なる表症の治療ではないかと思う方もおられるでしょうが、お試しになってください。裏にも影響することが感じられることと思います。

「接触鍼について」

 私共は正気を増やすことを目的に治療をしますが、その手段は確実に正気を増やせるものなら、どのようなものでもいいと考えています。毫鍼を接触させても、鍼を使っても、指で気を増やしても・・・。

私共の場合は当塾で気の去来を感じる訓練の道具である「パワースティック」を主に使っています。

「養生は大事」

花粉症に対しては治療も重要でありますが、普段の生活の中での養生の有無が大きく影響します。養生のポイントは如何に正気を漏らさないかであり、具体的には肉体疲労・精神疲労・飲食の不摂生・運動の過不足・房事不節・発汗不節・冷やしすぎなどを如何に抑えるかにかかってくるものと思います。

「花粉症の病理」

 花粉症は「花粉の飛散に病因があるという単純な面」と、「その背景にある複雑な面」とがあると思います。複雑な面は「昔より花粉の飛散量が少ない現代の方が、罹患者数が多い」ことや「花粉の飛散量が多い山間部より、飛散量が少ない都市部の方が、罹患者数が多い」ことです。これに加えて「大気汚染と花粉の飛散が重なっている地域に花粉症が多い」というデータから、蓄積性がある科学物質などの新たな邪気が関わっているようなのです。その邪気のために本来は邪気でないものまで邪気と判断するという生体機能の狂いが背景にあるのではないでしょうか。

その狂いのために生じた花粉との戦いに、無駄に正気を消耗し続け、またその正気の減少から狂った機能が元に戻らず、坂道を転がり落ちるが如く止まらなくなったものが花粉症ではないかと思います。

そして、一つの花粉症で正気を消耗した者は、次から次へと新たな花粉症や他のアレルギーに罹るという、アレルギーの連鎖が生じるのです。

また、親となる人が(花粉症などの)アレルギーを持つ体質などで、正気の虚した状態で子供をつくると、子供は初めから正気の少ない状態で生まれ、この先天的に正気の少ない子供たちは、早期にこの坂道に突入するのです。

「花粉という新たな邪気」

 花粉症の現状から考えると、「症状の発症期間が明確であること」や、「五感で感じられないこと」、「多くの場合、初期から裏の症状があること」などの特徴から、外感六淫の範疇には入らないと考えられます。無理をして花粉を外感六淫の範疇に入れると的確な診断と治療が出来なくなります。 

 花粉症は、どちらかと言うと裏の病であり、裏が虚したために外感を受けやすくなり、表症と裏症とが混在して発現するのでしょう。

 以上のようなことから私共は、外感六淫以外の外邪として「花粉」という邪気を設けて臨床で用いています。よく現代医学的診断を東洋医学的診断(証)に置き換えて治療を行うケースがありますが、私共の臨床での花粉症治療は、置き換えて診断し直す必要がありません。

科学が進んで新たな発見があり、それに普遍性があるのなら、それを加え、そして理論を組み直せば、東洋医学も発展するのではないでしょうか。

「稀に右関上にも・・・」

 今回、花粉症の脉は「右寸口と両尺位に著しい虚」ということを強調してきましたが、稀に「右関上に最も虚の反応」がでる場合があります。花粉の種類の違いか、季節の違いか、個人の差なのか、はたまた、その他の何かによるものか、原因を特定するには至っていませんが、ここで報告し今後の課題といたします。

『花粉症の症例』

 これから報告させていただく症例のうち、[症例1]と[症例2]に関しては、花粉症という診断名を確定的に使用する以前のことであり、使用穴が曖昧であります。しかし、二つの症例の患者さんらは姉妹であり、2人して花粉のない処に移動したと同時に症状の緩解をみると言うおもしろい症例でもあります。

[症例3]と[症例4]は、最近のものであり、今回の論考通り著効を得たものであります。

[症例1]

松永吉美(仮名) 平成9年生まれ 女 4歳 身体は平均より大きくポッチャリ型

この患者さんは乳幼児期より体調が悪くなると来院していた子供であり、多くは腎虚の治療をしていた。

[主訴]

平成13年3月3日に来院。「昨日より倦怠感と微熱」があるとのこと。親御さんから、27日より北海道にスキーに行く計画があり、体調を調えておきたいとのことであった。

[診断]

脉は右寸口と両尺位に正気の虚を診る。気色少なし。声に力少なし。しゃべるのも辛そうであった。診断は表寒証。

[施治]

大淵穴と湧泉穴に取穴。

[効果]

術後、脉、気色、声に正気が戻り、しゃべりだす。

[経過と所見]

しかし、以上の効果も1~2日で元に戻り長続きせず。以後、6日、10日、19日、20日、21日、22日、と、同穴を中心に時々ストレスを考えて神門穴や食欲減を考えて太白穴などを使う。しかし、一進一退を繰り返すばかりで治る気配がなく、花粉症ではないかと考え直す。大淵穴と湧泉穴への治療は、風邪でも花粉症でも効果が得られるので、たとえ誤診だとしても治療に問題はなかった。

23日から喘鳴が出だし、ここで花粉症が主であると確信する。そして24日、25日、26日と一進一退を繰り返した。

親御さんから「明日から北海道へのスキー、どうしようか?」と問われ、私(柿田)は行くことを勧めた。何故ならば北海道ではスギとヒノキの花粉は飛んでないからであります。翌日、北海道から電話が入り元気でいるとのことでした。

当初、軽い風邪と判断し、適切な治療を施したにも関わらず、治りきらないことから花粉症を疑い、花粉の飛散がない転地で治った症例です。

[症例2]

松永和美(仮名) 平成6年生まれ 女 7歳 平均よりはかなり大きくバランスは良い

  この患者さんは[症例1]の姉であり、妹と同じく乳幼児期より体調が悪くなると来院していた子供であり、心虚を中心に治療していた。

[主訴]

  平成13年3月10日に来院。「昨日より倦怠感と咳、食欲減少」があるとのこと。妹同様、27日より北海道にスキーに行く計画があり、体調を調えたいということであった。

[診断]

  脉は両寸口と両尺位に正気の虚を診る。気色少なし。声に力少なし。診断は表寒証。

[施治]

治療は大淵穴、神門穴、湧泉穴、太白穴に取穴した。

[効果]

術後、脉、気色、声に正気が戻る。空腹を訴え出した。

[経過と所見]

しかし、以上の効果も1~2日で元に戻り長続きせず。当初は妹も表寒証(と思っていた)で来院中だった為に感染症も考えていた。

以後、3月12日、13日、16日、19日と大淵穴と湧泉穴、そして元々弱い心を考えて神門穴で治療をした。しかし、術後、脉、気色、声共に好転するも次の来院時には落ちていた。

20日に39℃の熱が出、21日、22日は微熱程度に下がる。しかし、熱は下がり切らず、咳も消え切らずスッキリしない。この時点で症状と治療の経過から花粉症と判断し直す。

以後、症状は同じように23日、24日、25日、26日と続いた。妹同様、北海道へのスキーの件で親御さんから相談があったが、花粉症と判断したので行ってもらった。翌日、北海道から電話が入り、熱もなく元気でスキーをしているとのことであった。

[考察]

前述した通り、[症例1]、[症例2]の当時は、現在ほど花粉症に対する認識も、治療穴も確立してなかったことと、私共の治療は穴性よりも経絡性を重視していることで、井穴以外の穴も選択していました。最近になって少商穴や至陰穴など井穴が表と裏の両面に影響しやすいことに気が付き、井穴を使用することが多くなっています。

[症例3]

 下田冨子(仮名) 昭和43年生まれ 女 36歳 身長156cm 体重44㎏

  この患者さんは以前より、疲れやすい、足の冷え、慢性的な軟便、嗜眠など腎虚の証で度々来院されていた。

[主訴]

平成16年4月12日に来院。「今朝ほどより、倦怠感と発熱(37.5℃)、悪風がある」との訴えである。

[診断]

脉は右寸口と両尺位に正気の虚を診る。気色少なし。声に力少なし。便軟。以上のことから花粉症と診る。

[施治]

至陰穴と少商穴。

[効果]

脉、気色、声、悪風、熱は共に改善する。

[経過と所見]

しかし、その日の夕方に音楽のコンサートに行き、冷房で冷え、夜に再発した。

13日来院。熱は39℃に上がっていた。この日の施治も前日同様。術後38℃に下がる。14日来院。朝まで38℃あり、昼頃より39℃に上がる。施治は前回同様。術後38℃に下がる。15日来院。朝に37℃代になり。施治は前回同様。術後平熱に下がる。以後、平常に戻っているとの連絡があった。

[考察]

発熱時に正気を増やす治療をすると、病原性微生物の感染による場合、多くは一段と熱が上がり、その後に下がる。花粉症の場合は術後に熱は下がり、その後、花粉の飛散が続いていれば徐々に上がってくることが多い。花粉症の場合は、花粉の飛散数が減少するか、正気が増える事で熱は出なくなりますが、この時期、花粉が減少する時期でもなく、正気が増えて緩解したものと思われる。もしも、正気が減少し過ぎて熱が出なくなったものなら、他の所見(脉や気色の悪化、倦怠感など)で悪化がみられる筈である。

[症例4]

内田博英(仮名) 昭和22年生まれ 男 56歳 身長170cm 体重65㎏

この患者さんは頚椎捻挫をきっかけに、慢性的な前立腺炎、消化器系の弱りなどの治療と健康維持の為に9年前から継続的に来られている患者さんであり、5年前にひどい花粉症を発し、それ以後、この患者さんの花粉症には、患者さんと私(柿田)共に神経質になりました。  

来院前の既往歴としては小児期に命に関わるほどの肺炎と腸炎を患い、現在、肺には影がある。

この患者さんは普段から仕事と家庭に於いて忙しく、心身共に過労気味である。それ故、種々の原因からの症状を持ってこられる。其の中で花粉症のみの症状と思われた日のカルテからの症例です。

[主訴]

平成16年3月29日に来院。「鼻水、咳、倦怠感、痔出血、手先足先のシビレ、胸痛がある」との訴えである。

[診断]

脉は右寸口と両尺位に正気の虚を診る。気色少なし。声に力少なく濁る。以上のことから花粉症と診る。

[施治]

至陰穴。

[効果]

脉、気色、声、は共に改善する。自覚症状のうち、即時判断できない痔出血を除きすべて改善する。

[経過と所見]

前述の通り、病因が花粉以外になかったので、至陰穴のみの治療でかなりの効果を得たが、花粉の飛散真っ只中の時期だけに数日で戻ってしまった。しかし、継続治療する事で、以前なら仕事を休んでいたと思われる時期にも、仕事ができているとの事である。

[考察]

自覚症状が、鼻水、咳、倦怠感、痔出血、手先足先のシビレ、胸痛という、一般的には、花粉症とは思えない症状ですが、論文中にもあるように、花粉症であると診断しました。また、一般的には軽症とは思われない諸症状が、至陰穴のみで著効を得たという症例でもあります。

ただ、花粉の飛散が非常に多い時期にあったので、治療をしても再び症状は現われます。しかし、継続して治療することで、最悪の状態には至らないことをこの症例は示しています。

『最後に』

以上のように花粉症は、単に目や鼻に限定される危険度の低いものではなく、時には死に至る要素を含んだ危険度の高いものなのです。そしてこの花粉症をここまで危険なものに育て上げてきたのは、食物や水、空気などの汚染であり、自然環境の悪化なのです。その影にあるのが経済中心的な社会であり、環境の悪化はその副産物ではないでしょうか。この先これらの環境は好転しそうにありません。花粉症も同じでしょう。

 このような現状の中にあって、私たち治療家は患者さんの症状を軽くしてあげることも大事ですが、花粉症の後ろにあるこのような状況を情報として伝え、患者さん自身で意識や生活を変えていただくことも大事ではないでしょうか。

 東洋医学は自然中心であります。競争より共生と和ではないでしょうか。

                            柿田塾

                            塾  長 柿田 秀明
                            塾長補佐 知道  凜

参考文献
「よくわかるアトピー性皮膚炎一問一問」松延政之+千葉友幸+橋本宏一 合同出版