薄毛・猫毛・抜け毛の新治療法

昨今、男女の区別なく、若くして髪の毛が少ない(薄毛)、細い(猫毛)、抜けやすい(抜け毛)など、髪の毛に悩みを持っておられる方は、雑誌やテレビで見かける、育毛剤、増毛法、かつらなど、コマーシャルの頻度からみても、かなりいらっしゃるように思います。これらの症状を東洋医学的に診断すれば腎虚や血虚ということで簡単に結論が出ます。しかし、これらに対しては、患部である頭髪や頭皮を直接治療することは難しく、多くは経絡を通して遠隔的な治療になります。

 今回、このような症状に対して、頭髪に直接、気を増やし、腎虚にも血虚にも効果がある治療法を報告させて頂きたいと思います。

「薄毛・猫毛・抜け毛は病気?」

 薄毛・猫毛・抜け毛などの呼び名は、東洋医学でも現代医学でも病名としては存在しないようであります。しかし、抜け毛に関しては、現代医学の中で、何らかの病気に付随して現われる症候名としては存在しております。

今回ここで対象とするのは、現代医学的に見て、病気の一症状として現われるものではなく、原因となる病気がないのに、これらの症状が現われる場合のものです。

「現行の治療法は・・・?」

 これらの症状に対して、現代医学では治療の対象になることが少なく、一般的な対処法として、育毛剤や増毛剤を使う程度であります。また、東洋医学的には腎虚や血虚を治療し、二次的な効果として期待する程度です。ただ、神経性脱毛症に限っては、直接患部に灸をすえることもあります。

 以上のように薄毛・猫毛・抜け毛に対する確立された治療法はあまりないのです。

「新たな治療法」

 今回、紹介させていただく治療法は、髪の毛の先端を焼くというものであります。昔より世界中の色んな国で髪の毛を焼く手法は、テレビなどのメディアを通して知られています。そして、それらの道具の多くはロウソクだったと記憶しています。

しかし、これらは治療ではなく、あくまで理髪の一つの手法であり、治療効果を期待したものではなかったと思います。もしも、治療効果を期待したものであったら、私の認識不足であり、新たな治療法ではなくなりますがお許しください。

ちなみに私共が用いる道具は使い捨てライターであります。これに至るまでにはウッドバーニング用の焼きペンや自作のニクロム線に電気を通した物なども試しました。

しかし、これらの場合、患者さんの髪の毛を引っ張らなければならないので、痛みや不快感を感じさせます。また温度が低い為に焦げる程度にとどまることや、後で詳しく述べますが、毛先が半球形にならなかったりするので諦めました。

道具が安価で、簡単に手に入り、使い勝手がよく、そして確実に焼けるということで、使い捨てライターに落ち着きました。

注1:ペン先が電熱になっているペンで木を焦がして絵や文字を描く技法

「薄毛・猫毛・抜け毛に至るメカニズム」

 薄毛・猫毛・抜け毛は、現代医学的には、先天的な場合は先天異常、そして後天的な場合、多くは老化現象ということで片付けられます。しかし、東洋医学的には、先天的なものは“先天の気が少ない”と、また後天的なものは“先天の気が減少した”と考え、どちらも先天の原気を司る腎之蔵の虚と診断できます。

そのメカニズムはというと、先天的または後天的に、腎が虚すると、頭髪の異常を生じます。また「髪は血餘」といわれるように、血虚からも頭髪の異常を生じます。

即ち、臓腑では「腎虚⇒毛根の虚⇒薄毛・猫毛・抜け毛」が、血では「血虚⇒毛根の虚⇒薄毛・猫毛・抜け毛」という図式が成り立つのです。

注2:『素問』六節蔵象論にある「腎者、主蟄、封蔵之本、精之処也、其華在髪、其充在骨・・・」

「髪の毛を焼くと何故効く?」

 髪の毛を焼くと、何故に効果があるのかというと次の二つが考えられます。

① 温補効果

薄毛・猫毛・抜け毛の人の頭を手で触れてみると、皆が皆、頭皮が虚して冷えています。頭皮に手をかざして感じると、熱感を感じることもありますが、それは頭皮より深い頭蓋骨内の熱であり、頭皮の熱ではありません。

短絡的ではありますが、冷えているところは温めればいいのです。しかし、髪の毛が密集している頭皮にお灸をすえるのは、多くの髪の毛を焼き切ることになり、これを避けて頭皮のみに灸をするということは至難の技であります。

髪の毛の先端を、火で焼く実験を繰り返した結果、髪の毛を通して頭皮まで十分な温補的効果が得られることを確認しました。これは髪の毛の長い短いには関係ありません。また、脉診においても効果は確認できます。

これをもう少し掘り下げて考えると、髪の毛とは、気が巡り、血が巡り、水も巡る肉体の一部です。その毛先を火で焼き温補することで、毛根部までそれが伝わり、毛根部がある頭皮においては、皮毛・肌肉・脉・筋・骨の深さが浅いために、毛根部に補われた気は皮毛から骨にかけて幅広く影響すると考えられます。即ち、身体の浅い部分から深い部分にかけて、また、五臓にまで温補できるのです。

注3:五臓の色体表「五主」

②形状の効果

    面白いことにライターで髪の毛の先を焼くと、毛先は丸く半球形になります。この形は『霊枢』官能七三にある方員を形状と捉えたときに、補に働く(毛先側から気を吸い込む)形であります。方員の補瀉に関しての論考は、「漢方の臨床」誌の第45巻・第8号(1998年8月)、に掲載していただいております。詳しくお知りになりたい方はご一読ください。

    薄毛・猫毛・抜け毛の方の、髪の毛の先を観察すると、ほとんどがスリオロシ状に鋭く尖っていますし、またカットしたばかりの毛先も、殆んどが斜めに鋭く尖っています。この形状は「官能七三にある方員」の論からすると、瀉に働く(毛根側から毛先側へ気が流れ出る)形になり、身体・頭髪共に虚する形状であるのです。

    即ち、毛先を焼くことで常に気を毛根側に吸い込むようになり、常時補法をしているのと同じなのです。

以上の①、②は補気が中心であります。血を補うには補気と共に水穀が吸収されていなければなりません。そのためには、吸収できるだけの脾胃の力、そして材料たる飲食が足りていることが前提条件であります。

私共が行なってきた、今回の治療法は、飲食を主とした養生指導に加え、脾胃の治療も含めた全体治療の後に行なっていますので、血を補うには問題ありません。

もし、水穀が足りないまま、今回の治療を行なっても、血は補われ難いと思います。特に血虚や陰虚と思われる場合は、十分に水を補ってから行なってください。

「毛先を焼いた結果は・・・」

 以上のように毛先を焼いた患者さんの追跡調査をすると、異口同音に「髪の毛が太くなった・抜けにくくなった・増えた・生えた・艶が出た・張りが出た」という声が聞かれました。

これらの症例の報告を添えたかったのですが、前述の如く、この治療法のみを行なっていた訳ではなく、付属的に行なったものであり、単独治療としては、まとめ難いために、症例報告は割愛させていただきました。

「実際の手順」

 用意するものは、使い捨てライターの電子着火のもの(石の着火のものは、熱くなり過ぎて長時間使えない)と濡れタオルです。

手順としては、まず、患者さんには椅子に腰掛けていただき、炭で服が汚れないように肩にタオルをかけます。そして、術者は片手の母指と次指で、髪の毛の先を数本から数十本単位で摘まみ上げ、指先から毛先を数センチ出し、毛先を上に向け、その先にライターで火を付けます。多くは自然に消えますが、もしも、火が消えにくい場合には息を吹きかけるか、反対側の手の指で押さえるか、風を送って消してください。

この手順で全ての髪の毛に行ないます。燃えた毛先の灰をそのままにしておくと、燃やしていない髪の毛との区別がついて重複することなく行なえます。全体を焼き終わったら、洗面所などで灰を落とします。

 毛先を下に向けて燃やすと、目的以外の髪の毛に燃え広がる危険があるため、注意してください。万が一、他の毛に類焼した時には濡れタオルで消してください。

月に一回程度のペースなら、毛先から1~2cm位焼いても問題ありませんが、より治療効果を得るためにペースを早めるのなら、その分、焼く部分を少なくしてください。そうでないと髪形が変わってしまいます。

「最後に」

 今回紹介したライターを使う手法に関して、本来の東洋医学から見れば邪道ではないかと思う先生もおられたことでしょう。しかし、髪の毛や頭皮に直接的に正気を増やし、尚且つ、全身にも正気を増やすことができる治療法は他に経験したことがありません。

薄毛・猫毛・抜け毛が、原因となる病気があっての発症でも、髪の毛を焼くことで、全身の正気が増えるため、その病気に対しても治療的に働き、標治、本治の両治ができるのです。

現代医学的な目から抜け毛を見た場合、頭皮における皮脂の蓄積や雑菌の繁殖が原因していることがあります。これは東洋医学的に考えれば、正気の減少によって起こるものですから、正気を補うことで、皮脂の蓄積や雑菌の繁殖も抑えることができると思われます。

また、温補の治療として一般的に用いられる直灸と比べると、灸痕を付けて気の通りを悪くしたり、水疱や化膿を心配することもないのです。

ライターで髪の毛を焼くというと、一見荒い治療にみえますが、補法としては正確で安全な治療法だと思います。

宜しかったら、諸先生方にも試していただきたく思います。

                       柿田塾
                        塾  長 柿田 秀明
                        塾長補佐 城田 吉彦